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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2007/10/24号

国際協力の現場で応用できる“経営者”の視点
~和田中学校の教育再生を事例に~

シリーズその3/3
by 野田さえ子

2.理念と原則とルール、そして「自立貢献」が動き出す。

 「生徒を評価しない、欲のない第三者としての大人と豊かな人間関係を作る」。

これを実現するために作られた地域本部 土曜寺子屋の補習時間で活躍する大学生ボランティアたち。藤原校長の書いた著書などに感銘をうけ、教育の道を志している彼らは遠方からでも集まってくるそうです。

彼らには「学生ボランティア10か条」を用意しています。

~和田中学校 地域本部  学生ボランティア10か条~

1. ドテラは、将来の教師の修行の場であることを忘れてはならない。学習面だけでなく、授業態度、生活面も含め指導を心がけること。
2 学ボラは、将来の教師としての自覚を持ち、生徒とは「ナナメの関係」での適切な距離感を保つこと(友達感覚は不可)。生徒から敬意を払われるように心がける。
3 活動場所は、原則として和田中学校内に限る。生徒との校外での個人的な接触は禁ず。(和田中生に対する校外補習・家庭教師等を禁ず)ただし、校外授業等の必要がある場合には、事前に実行委員に届け出て、実行委員長及び学校長の承認が必要である。
4 登校に際し、華美な服装はしない。
5 携帯電話は、教室内では使用しない。授業中の使用は避ける。
6 貴重品は、各個人の責任で管理すること。
7 生徒から個人情報(住所・電話番号・メールアドレス・家庭事情等)を聞き出さない。生徒個人の成績やテスト結果などを公表しない。その他、生徒に関する個人情報の取扱いについては注意すること。
8 生徒に対して、ファーストネームやニックネームで呼ばない。「~さん」「~君」をつける。
9 この規則は、随時改定される場合がある。その他の事項に関しては、和田中学校のルールに準ずること。
10 以上の規則を守れない場合は、実行委員会において処分される場合がある。

 例えば、第8条の「生徒をあだ名やファーストネームで呼ばない」は、「ナナメの関係」を築くという理念を実現するために、意図して作られたルールです。あだ名で呼ぶと、このナナメの関係がくずれ、横の関係になってしまいます。これを防ぐために具体的にルール化しています。

 こうした基本的な行動基準を作り、あとは各自の「自立貢献」を促しています。学生ボランティアによって、「宿題やっちゃおうスペシャル」といった夏休み企画や、「実現したい夢を書こう」プロジェクトなど、どんどん企画が生まれて、実現しています。

 経営に携わっている方なら、カールトン・リッツホテルのクレドカードを思い出される方も多いでしょう。すべての従業員が携帯しているという四ツ折の小さなクレドカードには、カールトンリッツの信条(理念)、方針、行動基準が、前向きな表現で記載されています。

クレド

リッツ・カールトンはお客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています。

私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだそして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します。

リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です。

モットー

ザ・リッツ・カールトン ホテル カンパニー L.L.C. では「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です」をモットーとしています。この言葉には、すべてのスタッフが常に最高レベルのサービスを提供するという当ホテルの姿勢が表れています。

サービスの 3 ステップ

1. あたたかい、心からのごあいさつを。お客様をお名前でお呼びします。
2. 一人一人のお客様のニーズを先読みし、おこたえします。
3. 感じのよいお見送りを。さようならのごあいさつは心をこめて。お客様のお名前をそえます。

サービス・バリューズ:私はリッツ・カールトンの一員であることを誇りに思います。

1. 私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲得します。
2. 私は、お客様の願望やニーズには、言葉にされるものも、されないものも、常におこたえします。
3. 私には、ユニークな、思い出に残る、パーソナルな経験をお客様にもたらすため、エンパワーメントが与えられています。
4. 私は、「成功への要因」を達成し、リッツ・カールトン・ミスティークを作るという自分の役割を理解します。
5. 私は、お客様のリッツ・カールトンでの経験にイノベーション(革新)をもたらし、よりよいものにする機会を常に求めます。
6. 私は、お客様の問題を自分のものとして受け止め、直ちに解決します。
7. 私は、お客様や従業員同士のニーズを満たすよう、チームワークとラテラル・サービスを実践する職場環境を築きます。
8. 私には、絶えず学び、成長する機会があります。
9. 私は、自分に関係する仕事のプランニングに参画します。
10. 私は、自分のプロフェッショナルな身だしなみ、言葉づかい、ふるまいに誇りを持ちます。
11. 私は、お客様、職場の仲間、そして会社の機密情報および資産について、プライバシーとセキュリティを守ります。
12. 私には、妥協のない清潔さを保ち、安全で事故のない環境を築く責任があります。

従業員の憲法ともなるクレド(信条)、そして方針、行動基準。これをきちんと整えることで、自己尊厳の機会うけたスタッフが最高水準のサービスを行うよう自立的に動くシステムを作り出しています。大切にされて人を大切にするシステムを、理念から原則、行動基準にうまく具体的に落としており、非常に参考になるシステムです。

国際協力の分野でも、「理念と原則とルール」の重要性が言われています。

参加型開発の伝道師ロバート・チェンバース氏の著書「開発と思想と行動」の第2章2項“エンパワーするための手続きと原則”においても、譲れない原則をつくること、最低限のルールで運用することが、エンパワーされた人々による自立的な発展の上で重要であることが指摘されています。

例えば、南インドのNGO、MYRADAでは、女性自助グループへの支援をしていますが、たった2つのことだけを要求しています。透明性のある正確な会計を行うこと。そして、責任者を委員長などとは呼ばす代表と呼び、交代制によって民主化することだけでした。

実現したい理念と、原則、最低限のルール。

和田中の改革と類似しているテーマだと思います。

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