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人の森国際協力>>アーカイブス人の森通信2011/8/19号

本の紹介 必読の書!
「世界一大きな問題のシンプルな解き方~私が貧困解決の場で学んだこと」

by野田さえ子 国際協力コンサルタント、中小企業診断士

https://honwoyomu.com/books/4862761062.html

裸の王様という絵本で、確か「あの王様、裸で歩いているよ」と指摘できたのは、 とある一人の子どもだったかと記憶しています。本当は王様は何も衣装は着てい ないのに、あたかも着ているかのように称賛している大人たちを尻目に…。

「世界一大きな問題のシンプルな解き方」という本の著者、ポール・ポラック氏 は、「裸の王様」に登場する、まさにその子どものようです。

どうやって、一日1ドル以下で生活するいわゆる貧困層の人々が、その状態から 抜け出せるのか。

ポラック氏は、この問題に対し、途上国の開発の専門家と呼ばれる人たちが長年 失っていた視点を、非常にシンプルに、かつ非常に有効で、大規模に解決する方 法を提示しました。

それは、一日1ドル以下で生活する、1エーカー未満の小さな土地を耕作する、貧 困層と呼ばれる人たちのための新しい農業の提案と実践です。

ポラック氏は、世界の貧困問題に現実的なソリューションを見出すべく、1981年 に起業家2人とIDE(International Development Enterprises)を設立。

「実践的なビジネス戦略を用いて、1日1ドルの貧しい人々の収入を増やす」とい うミッションのもと、貧しい人々でも購入できるようなドリップ灌漑システムを 開発。例えば、バングラデシュでは、ポンプ自体8ドル、ポンプを井戸に設置す るコストまで含めても25ドルという低価格で提供。

この小規模な投資で、小規模農家は、コスト差引後で、100ドルの収入をあげら れます。こうした足踏みポンプ等が15か国以上、225万台程が販売され、1日1ド ル未満の農民は合計で2億ドル以上の純収入を1年間に生み出し、2000万人の貧困 脱却を可能にしたと言います。

この本を通して、様々な視点・工夫点・ノウハウを学ぶことができます。

例えば、どのように低価格のポンプを導入し、どのように収入源を多角化させ、 1ドル以下の貧困ラインから脱却していったか、読者に分かりやすくするため、 ネパールで貧困層にあったバハドゥ一家の例を挙げています。農業収入を増やす ため、またリスクをコントロールするため、彼らがどのようなポートフォリオを 組み、どのような投資を小規模から発展させ、どのように収入を上げ、その結果、 どのような費目に支出し、再投資できたかが具体的にわかるように、数字を上げ て詳細に書かれてあるのが、非常に参考になります。

また、例えば「どうすれば付加価値をつけられるのか」という項目では、まず何 を育てるのかを決める際に、
1)50人の農民に話を聞いて、昨年もっとも儲かった作物は何かを尋ね、15種 類ほどピックアップする。
(2)将来の需要見込みを簡単に分析する。それぞれの作物を販売して生活を立 てている経験豊かな販売業者に話を聞く。これにより、今後も需要が見込める作 物を4つか、5つに絞り込める。

などと、具体的な行動方法も提示しています。

もし、彼のアドバイスに耳を傾け、実行していたら、需要の少ない、あるいは誰 もが作っている作物を作って、安値で売らざるをえない状況に陥ることを避けら れたかもしれません。あるいは、農産物自体のビジネスチャンスを見出すことな く、いきなり農産物加工品をつくることに終始し、結果としてニーズの少ない、 あるいは誰もが作りやすい、また輸入品と競合するような農産物加工品を作って しまい、販売先に困ることも少なかったかもしれません。

また、ポラック氏たちが、この低価格の灌漑ポンプを、1日1ドル以下で生活する 農家に販売する際に用いた、マーケティング手法も参考になるでしょう。

一般的なカレンダーやチラシ、ポスター配布の他、吟遊詩人の旅楽団を雇い、足 踏みポンプの歌をつくってもらい、農民市場やお祭りで歌ってもらったり、劇団 の一座を雇い、足踏みポンプを宣伝するため書かれた劇を屋外で演じてもらった り、長編映画を作成したり…。

ターゲット顧客が接するメディアを戦略的に選び、宣伝費用を回収するだけの収 益構造を描きながら行っています。

以前、とある援助機関の「マーケティング」の専門家が、市場の価格情報を(実 際は主に非識字の)農民に伝えるために、インターネットで情報発信する方法を 採用したとの報告書を読んでがっかりしたことがあります。貧しい農民にアウト リーチするために、どのようなメディアを使うべきか、マーケティングの基本を 全く考えていないことが明らかです。「マーケティング」の専門家なのに――。

ポラック氏のこの本は、様々な人に非常に参考になります。
本当に「貧困をなくすために私たちができること」として
、 ・あなたができること、
・あなたが今始められること
・貧しい人たち自身ができること
・支援者ができること
・多国籍企業ができること
・大学ができること
・研究機関ができること
・小規模農場反映のためのネットワーク
・開発組織ができること
・デザイナーができること

をシンプルに提示しています。

上記に該当する方は、ぜひ、ご一読ください。
また、海外で現在普及しつつある一村一品プロジェクトの関係者にもお勧めしま す。開発学の論文や研究書籍より、ずっと、ずっと、貧困解決に役立つはず!

「やたらめっぽう、やっていてもダメ。的を射ないと。当たる確率を上げて、農 民のやる気をおこさないと」と語ってくれたのは、日本のソーシャルビジネスの 先駆者として有名な、徳島県上勝町の「株式会社いろどり」の代表取締役の横石 さんの言葉です。

横石さんの言葉のとおり、「きちんと的を射た、お金を稼げる仕組み」を、単な る努力だけではなく、いかに結果を残しながら、支援者としてかかわるのか。 この問いに対して答えを出した成功者の言葉は重いです。

ポラック氏の凄いところは、自分でものを見る力と、判断力、そして判断した後、 行動に移す点です。これらの資質は、すぐれた経営者がみな備えているものとさ れています。ソーシャルビジネスにしてもしかり。非常に参考になりますし、勇 気づけられます。

本書のあとがきを書いたのは、ソーシャルビジネスの研究者・実践者として活躍 する株式会社日本総合研究所の槌谷詩野さん。彼女の言葉も、非常に彼女自身の オリジナルな思考・行動の結果から生まれたもので、躍動感があり、非常によか ったです。

途上国における開発関係者必読の書。
特に、農村開発、村落開発、ビジネス振興に携わる方におすすめします。
久々に、声を大にしておすすめできる本と巡り合いました。

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