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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2008/03/24号

エスキモーが氷を買うとき 奇跡のマーケティング
ジョン・スポールストラ著
きこ書房

by 野田直人

以前「エスキモーに氷を売る」というマーケティングの本が出ていて気になっていたのですが、買いそびれていました。今回その続編「エスキモーが氷を買うとき 奇跡のマーケティング」が出たので買ってみたところ、読み物としても面白いと思いましたので紹介します。

「人の森通信」の読者の皆さんの興味は、大雑把に言うと「企業経営」と「国際開発協力」とに分かれています。

「国際開発協力」はどちらかと言うと「予算を取って使う仕事」。一方企業経営は「利益を生み出す仕事」です。今回紹介する本はマーケティングの本ですから、一般的な理解では企業経営の一環。開発協力の人なら「自分にはあまり関係ないなあ」と思われるかもしれません。

ところがさにあらず。私の相棒さえ子も、繰り返し開発協力とビジネスの共通性を強調しています。この本も開発協力系の人が読んでも面白い本です。

まず驚くのは、結果に結びつけるための発想の豊かさ。常識にとらわれずに従来の枠を外して物事を考えることの重要性を認識させてくれます。

この本に出て来るのは、アメリカのプロ・スポーツの話ばかりですから、もちろん我々が日常接する世界とはいささか異なっています。

プロ・バスケットボールのチームを売り込むのと、アフリカの農民向けに農業技術を売り込むのとでは、同じ方法でいけるはずはありません。

しかし、ほとんどの広告代理店が常識だと思ってやっていることを外して考えると…という発想の方法は、ほとんどの援助組織がやっていることを外して考えると…という展開に繋がります。

どの業界であっても「常識」と思われていることの非常識を見抜き、適切な手を打てば、それまでとは異なったレベルでの成果が期待できます。

ちなみにこの本の英文の原書では異なったレベルの売上げを指して「outrageously」という言葉を使っています。邦訳の「奇跡の」とはいささかニュアンスが違いますね。

そしてもう一つ。画期的なマーケティングの話を面白く読み進めていくと、終わりの方に出て来るのが「会社にとって誰が一番大切か」という問いかけです。

アメリカの企業だと、これを「株主」「顧客」「従業員」だと考えることが多いそうです。開発協力に置き換えると「ドナー」「対象住民」「プロジェクト・スタッフ」でしょうか。確かに開発プロジェクトの多くはこの順番で物事を見ているように思えます。

ところが、この本の筆者は「従業員」「顧客」「株主」の順だ、と主張しています。従業員が気持ちよく働ければ、従業員と接する顧客満足度も高まり、結果として株主にも利益が出ます。

アフリカで私が経験したプロジェクト運営も全く同じです。プロジェクトのスタッフが気持ちよく働ける環境を整えれば、対象住民との関係構築も非常にスムースになります。その結果プロジェクトの進捗も良くなりますから、ドナーも満足します。

これがドナーの方を最初に向いて仕事をしていると、表面上のパフォーマンスを繕うばかりで目立った成果はあがらず、プロジェクトの内部もぎすぎすしてしまう、というパターンに陥りがちです。

働く分野・世界は違っても、共通の原則が生きていることを教えてくれた一冊でした。

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