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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2007/11/20号

本の紹介
「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?
小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方」

by 野田直人

「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?
小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方」
枝廣淳子・小田理一郎 東洋経済新報社

「システム思考」聞いたことはありましたが、内容は知りませんでした。相棒のさえ子に勧められてこの本を手に取り、ぱらぱらとめくっていると、見慣れた文言が…

「機会の平等を確保せよ」

私が講師を務めた開発協力講座に出席された方なら耳慣れた言葉のはず。何しろ毎回口をすっぱくして強調していますから。そして私がアフリカのセネガルで取り入れたPRODEFIモデルという地域開発のアプローチでは、「機会平等」は根幹を成す原則の一つです。

俄然システム思考に興味がわき、本を読みました。

「なるほど、こういう整理のしかたをするのか!」

国際協力の世界では、問題とその原因の関係を直線的な論理で結んで理解しようとする傾向が強くあります。問題の直接の原因を探り、その直接的な原因さえ取り除けば問題は解決する、という考え方です。

この考え方では因果関係は一方通行のツリー型の構造として理解されます。個々のツリーは独立したものとして扱われ、コントロールができないものは外部条件として、論理関係からは排除されます。

一方システム思考では、物事の因果関係はループ構造を基本に考えられます。さらにひとつのアクションが引き起こす変化を複数の可能性として捉えます。ループは複雑に絡み合い、多様な要素の存在を示します。

機会平等を例にしましょう。「人を選ぶ」とどうなるか。途上国の村でも、リーダーとかモデル農家などに選ばれた人は、外部からの直接の指導・援助という好条件を得て上向きのスパイラルに入ります。この人たちはますます目立つようになり、リーダーとかモデル農家などに選ばれる人は常に固定してきます。

つまり「人を選ぶ」ことの裏側には「選ばれない人を作る」という隠された面があるのです。選ばれる人が固定することは「選ばれない人を固定する」ことになります。こうして村の中で常に選ばれない人たちは不信感と落胆の下向きのスパイラルに入ります。

援助する側が村の中でリーダーとかモデル農家を選ぶのは、「常駐していない外部者が指導をしていては効率が悪い」という問題の直接的な解決策として提案されたものでしょう。直線的な思考では自明とすら思えるこのような行為が、実は別の因果関係のループを生み出す原因となることに、なかなか思い至ることはできません。

システム思考といえども、複雑な現象をモデル化し、ある程度単純化していることは否めません。しかし、目先の問題を単純かつ直線的な因果関係に当てはめて解決策を見出そうとする、従来の開発協力のアプローチには大きく欠けている視点を提供してくれることは間違いがありません。

特に国際協力関係の方々に本書をお勧めしたいと思います。

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